「問題行動」を、問題行動と呼ばない

「問題行動」を、問題行動と呼ばない

障害福祉の現場では、「問題行動」という言葉を耳にすることがあります。

大きな声を出す。
何度も同じことを聞く。
作業を拒否する。
突然、その場から離れてしまう。
人の話を遮る。
予定を変更すると怒る。
職員の指示に従わない。

こうした行動が続くと、支援する側も「どう対応すればいいのだろう」と悩みます。
場合によっては、職員同士の申し送りで、「今日は問題行動が多かった」「また〇〇さんが問題行動を起こした」と表現されることもあるでしょう。

もちろん、現場を回すためには、行動を整理して記録することも必要です。
しかし、ここで一度考えてみたいことがあります。

その行動は、本当に“問題”なのでしょうか。
もしかすると、それは本人にとっての「伝える手段」なのかもしれません。

「困った行動」と「困っている人」は違う
例えば、作業中に突然大きな声を出す利用者さんがいたとします。
職員からすれば、「周りの利用者が驚いてしまう」「作業の妨げになる」「静かにしてほしい」と思うでしょう。

そこで、「大きな声を出さないでください」と注意する。
しかし、それで本人が納得しなかったらどうでしょう。

また大きな声を出す。さらに注意する。それでも繰り返す。
そのうち、

「何度言っても分からない」
「今日は機嫌が悪い」
「問題行動が多い」

という見方になってしまうかもしれません。

でも、ここで一度立ち止まります。
なぜ、その人は大きな声を出しているのでしょうか。

もしかすると、作業が分からないのかもしれません。
周囲の音が気になっているのかもしれません。
誰かに助けてほしいのかもしれません。
嫌なことがあったのかもしれません。
自分の気持ちを言葉で伝えることが難しいのかもしれません。
あるいは、本人にとっては「大きな声を出すこと」が、今の状況を伝える唯一の方法なのかもしれません。

そう考えると、「大きな声を出す人」ではなく、「大きな声を出さなければならないほど、何かを感じている人」という見方ができます。この違いは、とても大きいと思います。

行動だけを見ると、本人の気持ちが見えなくなる
支援の現場では、どうしても「目に見えるもの」に意識が向きます。

大声。拒否。離席。こだわり。繰り返し。暴言。不安定な様子。
しかし、目に見えているのは「結果」であって、「原因」ではありません。

例えば、「作業をしない」という行動だけを見れば、

「怠けている」
「やる気がない」
「指示に従わない」

と考えてしまうこともあります。

でも実際には、

「作業の手順がわからない」
「失敗するのが怖い」
「今日は体調が悪い」
「周囲の環境が苦手」
「その作業自体が嫌なのではなく、量が多すぎる」
「昨日の出来事を引きずっている」

という可能性もあります。

つまり、同じ「作業拒否」という行動でも、理由は人によって全く違う。
だからこそ、行動だけを見て判断してしまうと、本当の支援から遠ざかってしまいます。

「なぜ?」を一回増やしてみる
支援において大切なのは、「どうやってやめさせるか」だけではないのかもしれません。
その前に、「なぜ、その行動が起きているのか」を考える。

例えば、何度も同じ質問をする人がいるとします。

「今日の予定は?」
「昼ごはんは何?」
「帰る時間は?」

さっき答えたばかりなのに、また聞いてくる。

支援者からすれば、「さっき説明しましたよ」と言いたくなるかもしれません。
しかし、本人が知りたいのは「答え」だけではない可能性があります。

もしかすると、

「予定が変わらないか不安」
「先のことが分からないと落ち着かない」
「忘れてしまうことが怖い」
「職員に確認することで安心している」

ということなのかもしれません。

そう考えると、対応も変わります。
ただ、「さっき言いましたよ」と返すのではなく、

「予定が気になっているんですね」
「今日はこの予定で大丈夫ですよ」
「ここに予定を書いておくので、気になったら一緒に確認しましょう」

という支援ができるのかもしれません。

同じ「繰り返し質問」でも、行動を止めようとする支援から、不安を減らす支援へ。
視点を変えるだけで、対応は大きく変わります。

行動をなくすことが、必ずしも支援ではない
支援者としては、「問題行動を減らしたい」と思います。
それ自体は当然です。本人や周囲が困っているのであれば、安全を確保する必要があります。

しかし、「行動をなくすこと」だけが目標になってしまうと危険です。

例えば、

怒らなくなった。
大声を出さなくなった。
拒否しなくなった。
職員の言うことを聞くようになった。

一見すると、とても良い変化に見えます。

でも、それは本当に本人にとって良い変化でしょうか。
もしかすると、「何を言っても聞いてもらえない」と諦めてしまっただけかもしれません。

「怒ったら怒られる」と思って、感情を抑え込んでいるだけかもしれません。
「拒否しても無駄」と感じて、何も言わなくなったのかもしれません。

つまり、問題行動がなくなった=問題が解決したとは限りません。
行動の「消失」だけを見るのではなく、その後、本人がどうなったのかを見る必要があります。

「問題行動」には、本人なりの理由がある
もちろん、すべての行動を肯定すればいいという話ではありません。

他人を傷つける行為や、危険につながる行動であれば、止めなければならない場面もあります。
周囲の利用者に影響が出る場合もあります。安全を守るために、ルールを伝えることも必要です。

ただ、「止めること」と「理解すること」は両立できます。
「その行動はやめましょう」と伝えながら、「でも、なぜそうしたのか?」を考える。

これが支援なのではないでしょうか。

例えば、「人を叩いてはいけません」というルールを伝える。
それと同時に、

「何が嫌だったのか?」
「どう伝えたかったのか?」
「その前に何が起きていたのか?」
「別の伝え方を一緒に探せないか?」

を考える。

ただ叱って終わるのではなく、次に同じ状況になったとき、本人が別の方法で伝えられるようにする。
そこまで考えることが、本当の意味での支援につながるのだと思います。

「行動の前」を見る
個人的に、支援を考えるうえで大切だと思うのが、「その行動が起きる前に何があったのか」を見ることです。

大声を出した。ではなく、「大声を出す5分前に何があった?」
作業を拒否した。ではなく、「拒否する直前に何を言われた?」
突然帰った。ではなく、「帰る前に何か嫌なことがあった?」
何度も質問した。ではなく、「質問する直前に何か不安になる出来事があった?」と考えてみる。

すると、今まで見えていなかったものが見えてくることがあります。

例えば、「職員が別の利用者に注意した後に、必ず大声を出す」というパターンが分かったとします。
そうなると、「大声を出す人」ではなく、「周囲の緊張した雰囲気に不安を感じやすい人」という理解につながるかもしれません。

すると、支援方法も変わってきます。
行動が起きてから対応するのではなく、行動が起きる前に環境を調整する。これは非常に大きな違いです。

支援者の「困った」を、本人の「困った」に置き換えてみる
「この人、困ったな」と思ったとき、一度だけ言葉に置き換えてみる。

「本人は、何に困っているんだろう?」これだけでも、見え方が変わります。
「何度も聞いてきて困る」→「本人は何かが不安なのかもしれない」
「作業をしてくれなくて困る」→「本人は作業の何かに困っているのかもしれない」
「突然帰ってしまって困る」→「その場にいられないほど、何か嫌なことがあったのかもしれない」
「怒ってしまって困る」→「本人は怒り以外の方法で気持ちを伝えることが難しいのかもしれない」

もちろん、これだけで答えが出るわけではありません。
支援者の推測が間違っていることもあります。

だからこそ、本人に確認したり、記録を振り返ったり、他の職員と情報を共有したりすることが必要になります。

「問題行動」という言葉を捨てる必要はない
ここまで書くと、「じゃあ、問題行動という言葉を使ってはいけないのか?」と思うのかもしれません。

私は、必ずしもそうではないと思います。
現場では、情報共有のために行動を簡潔に表現する必要があります。

大切なのは、その言葉で思考を止めないことです。
「問題行動があった」で終わるのではなく、

「どんな行動だったのか」
「いつ起きたのか」
「その前に何があったのか」
「本人は何を感じていた可能性があるのか」
「周囲の環境はどうだったのか」
「どう対応したら落ち着いたのか」
「次に同じことが起きたとき、どうすれば本人が困らずに済むのか」

そこまで考えて初めて、支援の材料になります。

「問題行動」の向こう側を見る
障害福祉の仕事をしていると、毎日のように「困った場面」に出会います。

何度言っても伝わらない。
突然怒る。
作業をしない。
予定を変えるとパニックになる。
同じことを何度も繰り返す。

支援者も人間なので、疲れることがあります。
「もう勘弁してほしい」と思う日だってあるでしょう。それは決して悪いことではありません。
支援者だって完璧な人間ではないからです。

ただ、そんなときに一度だけ、「この人は、何を伝えようとしているんだろう?」と考えてみる。

「困った人」ではなく、「困っている人」かもしれない。
「問題行動」ではなく、「本人なりのSOS」かもしれない。
「言うことを聞かない」のではなく、「言葉では伝えられない何かがある」のかもしれない。

もちろん、すべての行動に意味があるとは限りません。
それでも、最初から「問題」と決めつけず、その行動の奥にあるものを探してみる。

それだけで、支援者と利用者の関係は少し変わるのではないでしょうか。

行動を変える前に、その行動を見る目を変えてみる。
障害福祉の支援には、そんな視点も必要なのだと思います。

そしてもしかすると、私たちが「問題行動」と呼んでいたものの中には、本人がずっと発信していた、「分かってほし」というサインが隠れているのかもしれません。