「〇〇さんに聞いてください」
「〇〇さんじゃないと分かりません」
「〇〇さんがいないなら、今日はできません」
障害福祉の現場では、こんな言葉を耳にすることがあります。
特定の職員をとても信頼している。
困ったときには、いつも同じ職員に相談する。
その職員がいると安心して作業ができる。
これは、一見すると「信頼関係ができている」とも考えられます。
実際、利用者さんにとって「この人なら安心できる」という存在がいることは、とても大切なことです。
しかし、その関係が強くなりすぎると、少し別の問題が見えてくることがあります。
それが、「信頼」から「依存」へ変わってしまうことです。
人を頼ることは、悪いことではない
まず大前提として、誰かに頼ること自体は悪いことではありません。
困ったら職員に相談する。
分からなければ教えてもらう。
不安なときに「そばにいてほしい」と伝える。
これは障害福祉において自然なことです。
むしろ「誰にも頼らず、一人で全部やってください」という支援では、
利用者さんに大きな負担をかけてしまうことがあります。
大切なのは、「頼ること」ではなく、「頼り方」なのかもしれません。
「〇〇さんがいないと何もできない」になっていないか
例えば、いつも同じ職員に相談する利用者さんがいるとします。
「今日の作業は何をしたらいいですか?」
「〇〇さんに聞いてください」
「〇〇さん、今日は休みですよ」
「じゃあ、どうしたらいいか分かりません」
こんな状態が続くと、少し考える必要があります。
本当に「分からない」のか。
それとも、「〇〇さんに聞かないと不安だから、分からないことにしている」のか。
ここは、とても繊細な部分です。
本人にとっては、本当に不安なのかもしれません。
これまで〇〇さんに聞けば解決してきたから、〇〇さんに聞くことが習慣になっているのかもしれません。
あるいは、自分で決めて間違えることへの不安があるのかもしれません。
だから、「依存しているからダメ」という簡単に決めつけるのではなく、
「なぜ、その人を必要としているのだろう?」と考えることが大切です。
実は「依存させている」のは支援者かもしれない
ここは、支援者として少し耳の痛い話かもしれません。
利用者さんが職員に依存しているとき、「この人は依存が強いな」と、
利用者さん側だけの問題として考えてしまうことがあります。
しかし、もしかすると私たち支援者の関わり方にも原因があるのかもしれません。
「私が全部やってあげる」
「困ったら私に言ってね」
「私がいれば大丈夫だから」
もちろん、優しさから出ている言葉です。
でも、これが続くと、
「困ったら自分で考える」ではなく、「困ったら〇〇さんを呼ぶ」という習慣ができてしまう可能性があります。
支援者が親切に答え続けた結果、本人が自分で考える機会を失ってしまう。
これは、決して珍しいことではありません。
では、どう対応すればいいのか?
ここからが大切です。
「依存をなくそう」
と考えると、急に突き放すような対応になってしまいます。
「もう自分でやってください」
「毎回私に聞かないでください」
「〇〇さんがいなくてもできるでしょ」
これでは、利用者さんの不安が大きくなるだけかもしれません。
必要なのは、「依存を切る」のではなく、「頼り方を少しずつ広げる」という考え方です。
①いきなり離れない
例えば、いつも同じ職員に質問する利用者さんがいたとします。
最初から、「これからは別の職員に聞いてください」とするのではなく、
「今日は私と一緒に考えてみましょうか」から始める。
そして、
「まず、どう思いますか?」
「前はどうしましたか?」
「この中だったら、どれが良さそうですか?」
と、本人の考えを引き出します。
職員が答えを出すのではなく、本人が答えに近づくための手助けをする。
これが重要です。
②「誰に相談するか」を増やす
特定の職員一人に依存している場合、その人との関係を突然切る必要はありません。
むしろ、「今日は〇〇さんがお休みだから、△△さんと一緒に考えてみよう」
と、相談できる相手を少しづつ増やしていきます。
「このひとじゃないとダメ」から、「困ったら誰かに相談できる」へ。
さらに、「まず自分で考えてみて、それでも分からなければ相談する」へ。
この変化が大切です。
③「すぐ答えない」という支援
これは意外と難しいことです。
利用者さんから、「どうしたらいい?」と聞かれる。
つい、「こうしたらいいよ」と答えたくなります。
でも、場合によっては少し待ってみる。
「どうしたらいいと思う?」
「前はどうした?」
「一緒に考えてみようか」
と返してみる。
もちろん、本人が困っているのに何でも考えさせればいいわけではありません。
必要なときには、きちんと答えを伝えることも支援です。
大切なのは、「答えを教えること」と「考えることを支えること」を使い分けること。
④「できたこと」を本人に返す
依存が強いほど、「職員がいないとできなかった」という経験より、
「職員がいなくてもできた」という経験を積み重ねることが重要です。
例えば、
「今日は自分で決められましたね」
「〇〇さんに聞く前に、一度自分で考えられましたね」
「前より少し早く判断できましたね」
と伝える。
これは単なる誉め言葉ではありません。
「自分にもできる」という経験を本人に返しているのです。
そして、職員同士でも同じことが起きる
実は、この話は利用者さんだけの話ではありません。
職員同士でも、
「あの人が言っているから」
「〇〇さんに聞けばいい」
「あの人の判断に従っておけば間違いない」
という関係ができることがあります。
誰かを信頼すること、とても良いことです。
しかし、「信頼しているから考えなくていい」となってしまうと、少し違います。
利用者さんには「自分で考えることが大切」と伝えながら、
支援者自身が誰かの意見をそのまま受け入れていたら、少し矛盾しています。
だからこそ、「私はどう考えるのか」を持つことが大切なのだと思います。
依存を「なくす」のではなく、「自立の形を変える」
ここで一つ、考え方を変えてみたいと思います。
支援の目標を、「職員に頼らなくなること」にしてしまうと、少し苦くなります。
障害のある方にとって、人のサポートを受けながら生活することは決して悪いわけではありません。
大切なのは、「誰にも頼らないこと」ではありません。
「必要なときに、必要な人に、適切な形で頼れること」です。
一人の職員だけに頼るのではなく、複数の人に相談できる。
何でも丸投げするのではなく、自分でできるところは自分でやる。
不安だから全部決めてもらうのではなく、自分の希望を伝えたうえで相談する。
それも立派な「自立」の一つです。
「この人がいないとダメ」から「この人がいなくても大丈夫」へ
依存をなくすことを急ぐ必要はありません。
むしろ、安心できる人があるからこそ、新しいことに挑戦できる人もいます。
だからこそ、その「安心できる関係」を壊すのではなく、
安心できる人がいる状態から、安心できる人を少しずつ増やしていく。
そして最終的には、「〇〇さんがいないから何もできない」ではなく、
「〇〇さんはいないけど、自分でやってみよう」と思えるところまで、一緒に歩いていく。
それが支援なのかもしれません。
人は誰でも、誰かに頼りながら生きています。
支援者だってそうです。利用者さんだってそうです。
だから、依存することそのものを悪者にする必要はありません。
大切なのは、「その人がいないと何もできない関係」になっていないか、
そして、「その人がいるから安心して、自分の力を使える関係」になっているか。
同じ「頼る」という行動でも、その意味は大きく違います。
私たち支援者が目指したいのは、「頼られない支援」ではなく、
「頼ることが、その人の力を奪わない支援」なのかもしれません。

