利用者さん日記~ささいな勘違いから~

利用者さん日記~ささいな勘違いから~

今回は久しぶりに利用者さん日記シリーズの投稿です。この記事を読んで、また何かを感じ取っていただけたら幸いです。

10年以上、作業所に通っていた利用者さんがいました。
毎日のように顔を合わせ、作業をして、休憩をして、時には何気ない話をする。

10年という時間はとても長く、その人にとって作業所は単なる「通う場所」ではなく、生活の一部になっていたのではないかと思います。

しかし、ある時に起きた、ささいな勘違い。
こちらとしては大きな問題になるとは思っていなかったことでも、本人にとっては簡単に受け流せることではありませんでした。

その出来事をきっかけに作業所へ来なくなり、ご家族とのやり取りの中でも、お互いの気持ちがうまく噛み合わないまま関係が悪くなってしまいした。

そして最終的には、長年通っていた作業所を退所することになりました。

「ささいなこと」は、誰にとってささいなのか
支援をしていると、

「そんなつもりではなかった」
「少し誤解されただけ」
「説明すれば分かってもらえる」

そう思ってしまうことがあります。
しかし、その出来事が大きいか小さいかを決めるのは、支援者だけではありません。

本人が傷ついたのであれば、その人にとっては大きな出来事だったのかもしれません。
特に長く同じ場所を利用している方ほど、「ここなら分かってくれる」「自分のことを知ってくれている」という安心感や機体があった可能性もあります。

だからこそ、信頼していた場所で起きた小さな行き違いが、思っている以上に大きなショックになることもあります。

来なくなった時が、大切な分岐点だったのかもしれない
利用者さんが当然来なくなった時。

「本人が落ち着くまで待とう」
「そのうち来てくれるだろう」

そう考えることもあります。

もちろん、無理に来所を促すことが正しいとは限りません。ただ、「来なくなった」という行動そのものが、その人からのメッセージだった可能性もあります。

怒っている。
傷ついている。
納得できていない。
自分からはどう伝えればいいのか分からない。

言葉で説明できない気持ちが、「行かない」という形で表れていたのかもしれません。

その時に、こちらからもう少し早く、

「何が嫌だったのか」
「どう受け取ったのか」
「こちらの対応で傷ついたことはなかったか」

と確認する機会をつくれていたら、結果は違っていたかもしれません。

ご家族への対応も「説明」より「聞く」ことから
本人との関係がうまくいかなくなると、ご家族とのやり取りも難しくなることがあります。そんな時、施設側はどうしても「こちらの事情を分かってもらおう」と説明することに意識が向きます。

しかし、ご家族が求めていたのは、正しい説明よりも先に、「本人がどう感じていたのかを分かってほしい」ということだったのかもしれません。

「こちらには悪意はありませんでした」と説明することと、「そう感じさせてしまったことについて、まず話を聞かせてください」と伝えることでは、受け取られ方が大きく違います。

ご家族が感情的になっている時ほど、こちらも感情で返さず、一度受け止める姿勢が必要だったのではないかと思います。

10年間の関係を「これまで大丈夫だったから」で考えない
長く利用してもらっていると、知らず知らずのうちに、「この人のことは分かっている」と思ってしまうことがあります。

しかし、人の気持ちや生活環境、考え方は10年間ずっと同じではありませんでした。

以前なら気にならなかったことが、今は気になるかもしれません。
昔は職員に言えていたことが、今は言えなくなっているかもしれません。

長く関わっているからこそ、改めて本人の気持ちを確認する必要があります。

「10年知っている人」ではなく、「今日のこの人」を見る。それも長期的な支援では大切なことだと思います。

あの時、何ができただろう
今回のような出来事を振り返った時、できたかもしれない対応はいくつもあります。

本人が来なくなった早い段階で気持ちを聞くこと。
本人が話しにくければ、信頼している職員や相談支援員など、別の人に間に入ってもらうこと。
施設側の説明をする前に、本人やご家族が何に傷つき、何に納得できなかったのかを聞くこと。
一度の話し合いで解決しようとせず、少し時間を置いて再び話せる機会をつくること。
そして、「退所する・しない」という二択になる前に、しばらく休む、利用日数を減らす、担当職員を変えるなど、関係を完全に切らずに済む方法を一緒に考えること。

もちろん、それらをしていたとしても、退所という結果が変わらなかった可能性はあります。

支援には「こうすれば必ずうまくいく」という答えはありません。

退所して終わり、にしない
一番大切なのは、今回の出来事を「仕方なかった」で終わらせないことだと思います。

10年以上通ってくれた利用者さんが、最後は不満や不信感を抱えたまま離れていった。
それは施設にとって、とても大きな振り返りの機会です。

誰か一人の職員を責めるためではありません。

「どこで気持ちのすれ違いが始まったのか」
「どの時点なら関係を修復できたのか」
「次に同じことが起きた時、施設としてどう動くのか」

そこまで考えることが、その方との10年間を無駄にしないことにつながるのではないでしょうか。

福祉の仕事では、毎日大きな出来事が起こるわけではありません。
むしろ、人間関係が崩れるきっかけは、本当に小さなことだったりします。

だからこそ、私たちは「ささいなことだから大丈夫」と判断するのではなく、その人がどう感じたのかを見る必要があります。

長く続いた関係だから、これからも続くとは限らない。
そして、長く関わってきたからこそ、最後まで丁寧に向き合う。

今回の出来事から、そんな当たり前で難しい支援の大切さを、改めて考えさせられました。