障害福祉の現場では、利用者さん同士のトラブルが起こることがあります。
「言った・言わない」
「先に手を出した」
「順番を抜かされた」
「自分の物を勝手に触られた」
「嫌なことをされた」
一見すると、よくある喧嘩です。
しかし、支援者が仲裁に入ると、そこには少し難しい問題があります。
特に双方ともに理解する力や、自分の気持ちを言葉で整理して伝えることが苦手な場合です。
「何があっての?」と聞いても、
「〇〇さんが悪い!」
「違う!〇〇さんが先!」
「知らん!」
「嫌だった!」
と、話がさらに混乱してしまうこともあります。
では、こんなとき支援者はどうすればいいのでしょうか?
「どっちが悪い?」から始めない
喧嘩が起きると、支援者としては原因を知りたくなります。
「何があったの?」
「先に何をしたの?」
「どっちが悪いの?」
当然のことです。
しかし、当事者が状況を整理することが難しい場合、この質問がかえって混乱を大きくすることがあります。なぜなら本人たちは、「自分は悪くない」ということを伝えることで精一杯になっているからです。
そこで大切なのは、「犯人探し」よりも「状況を落ち着かせること」です。
まずは距離を取る。
それぞれを別の場所に移動する。
水分を取ってもらう。
少し時間を置く。
そして、気持ちが落ち着いてから話しを聞く。
喧嘩の最中に「さあ、冷静に話し合いましょう」と言っても、なかなか難しいものです。
大人同士でも難しいですよね。ましてや、感情を整理することが苦手な利用者さんであれば、なおさらです。
「どちらが正しいか」より「何が嫌だったのか」
例えば、
AさんがBさんの作業道具を触った。
Bさんが怒って、Aさんを叩いた。
Aさんは「叩かれた!」と怒る。
Bさんは「勝手に触られた!」と怒る。
ここで、「Bさんが悪い」だけで終わらせると、Bさんの中にある「嫌だった」という気持ちが置き去りになります。
もちろん、叩くことを正当化してはいけません。
しかし、「叩くことはダメ。でも、嫌だった気持ちは分かる」という二つを分けて考えることは大切です。
Aさんにも、「勝手に触られるのが嫌だったんだね」
Bさんにも、「叩かれたのが嫌だったんだね」と、それぞれの気持ちを整理してあげる。
ここで重要なのは、
「気持ちを受け止めること」と「行動を許すこと」は別ということです。
「嫌だったね」と言うことは、
「だから叩いてもいいよ」という意味ではありません。
理解力が乏しいからこそ、「分かる形」にする
「ちゃんと話し合ってください」
「相手の気持ちを考えてください」
「もう喧嘩しないでください」
こうした言葉は、私たちにとっては当たり前に聞こえます。
しかし、本人にとっては、「じゃあ、具体的にどうすればいいの?」となることがあります。そのため、抽象的な注意ではなく、できるだけ具体的に伝えることが大切です。
例えば、
「嫌だったら叩かない」
「嫌だったら『やめて』と言う」
「分からなかったら職員を呼ぶ」
「人の物は勝手に触らない」
「順番を守る」など。
さらに、本人の理解度に合わせて、
①やめてと言う
②離れる
③職員を呼ぶ
というように、行動を順番にして伝える方法もあります。
「謝らせれば解決」ではない
喧嘩が起きたとき、「ほら、謝って」「ごめんなさいって言おう」と、双方に謝罪を求めることがあります。もちろん、謝ること自体は悪いわけではありません。
ただし、謝った=問題が解決したとは限りません。
本人が何について謝っているのか分からないまま、「ごめんなさい」と言っているだけかもしれません。そして数時間後、また同じことが起こる。
それでは根本的な解決にはなりません。
大切なのは、
「何が嫌だったのか」
「どうすればよかったのか」
「次に同じことが起きたらどうするのか」
を、本人が理解できる形で確認することです。
支援者が「裁判官」にならない
利用者同士の喧嘩では、支援者が「判定する人」になりすぎないことも大切です。
「あなたが悪い」「あなたが正しい」と毎回決めてしまうと、利用者さんが何かトラブルになるたびに、「職員さん、どっちが悪い?」と、判断を支援者に委ねるようになる可能性があります。
もちろん、安全確保のために明確に「それはしてはいけない」と伝える場面はあります。
ただ、毎回すべてを白黒つける必要があるとは限りません。
支援者の役割は、勝敗を決めることではなく、次に同じことが起きたときの方法を一緒に考えること。そう考えると、仲裁の意味も少し変わってきます。
そして、支援者自身も「正解」を急がない
利用者同士の喧嘩に、毎回きれいな正解があるわけではありません。
その場では落ち着かせることを優先することもある。
後から改めて話を聞くこともある。
本人が理解できるよう、何度も同じことを伝える必要がある場合もある。
大切なのは、「喧嘩をゼロにする」ことだけではありません。
喧嘩が起きたときに、「どうすれば次は少し違う対応ができるか」を一緒に考えていくことです。
喧嘩の中にも「支援のヒント」がある
利用者さん同士の喧嘩は、できれば起きてほしくないものです。
しかし、そこには本人の苦手なことや、困っていることが隠れている場合があります。
「嫌なことを言葉で伝えるのが難しい」
「順番を待つことが難しい」
「相手との距離感が分からない」
「感情が高ぶると行動を止められない」
「自分の物と他人の物の区別が難しい」
「相手の気持ちを想像することが難しい」
つまり、喧嘩そのものだけを見るのではなく、「なぜこの人は、この行動を取ったのだろう?」と考えることが、次の支援につながります。
喧嘩を「問題行動」として終わらせるのではなく、「この人は何に困っていたのだろう?」と見る。そこから支援が始まるのかもしれません。
終わりに
利用者同士の喧嘩が起きたとき、支援者はどうしても、
「止めなければ」
「原因を突き止めなければ」
「謝らせなければ」
と考えてしまいます。
しかし、時にはその前に、「まずは落ち着こう」でいいのかもしれません。
そして、「どっちが悪い?」ではなく、「何が嫌だった?」「次はどうすればいい?」と、一つずつ整理していく。
支援とは、喧嘩をなくすことだけではありません。
喧嘩になったときに、自分の気持ちをどう伝えるのか。
嫌なことがあったとき、どう助けを求めるのか。
そして、相手とどう折り合いをつけていくのか。
その方法を一緒に探していくことも、立派な支援なのではないでしょうか。

