「本人の意思を尊重する」
障害福祉の現場では、とても大切にされている考え方です。
本人が自分で選ぶ。本人が自分で決める。
そのために、できるだけ多くの選択肢を用意する。
一見すると、とても理想的な支援に思えます。
しかし、ここには意外な盲点があります。
「選択肢が多いほど、本人は選びやすいのか?」ということです。
「どれがいい?」が、一番難しいこともある
例えば、利用者さんにレクリエーションを選んでもらうとします。
「今日は何をしますか?」
「塗り絵、パズル、折り紙、トランプ、計算、ゲーム、散歩…いろいろありますよ。好きなものを選んでください」
支援者としては、本人の意思を尊重しているつもりです。
ところが本人は黙ってしまう。
「どれがいい?」
もう一度聞いてみる。それでも答えが出ない。
すると、
「本人に選んでもらおうとしているのに、どうして選ばないんだろう?」
と思ってしまうかもしれません。
でも、もしかすると本人にとっては、
「選択肢が多すぎて選べない」だけなのかもしれません。
選択肢が増えると、頭の中では何が起きている?
私たちでも同じような経験があります。
例えば、レストランで、
「メニューは100種類あります。好きなものを選んでください」
と言われたらどうでしょう。
最初は、「いっぱいあっていいな」と思うかもしれません。
でも、しばらくすると、
「逆に何を食べればいいんだ…」となることがあります。
選択肢が増えたことで、自由になったはずなのに、決めることが難しくなる。
これは、障害の有無に関係なく起こることです。
ただ、情報を整理することや、複数の選択肢から比較して決めることが難しい人にとっては、その負担がより大きくなる場合があります。
だから、
「たくさん選べる環境を作れば、本人の意思を尊重できる」とは限らないのです。
「AとB、どっちがいい?」という支援
だからといって、支援者が全部決めればいいわけではありません。
そこで有効なのが、選択肢を絞ること。
例えば、「今日は塗り絵とパズル、どっちがいい?」と聞いてみる。
AかB。このくらいなら選びやすい人もいます。
「どっちも嫌」という答えが返ってきたら、それも大切な意思です。
その場合は、「じゃあ、今日は何もしない?」「散歩にする?」
と、また別の選択肢を提示してみる。
つまり、本人に丸投げするのではなく、本人が選びやすい形に整える。
これも意思決定支援の一つです。
「選ばせること」と「選べること」は違う
ここは、支援者が意識したいところです。
「本人が選んでもらう」と、「本人が選べる状態を作る」は、少し違います。
「どれがいいですか?」と聞くだけなら簡単です。
でも、本当に必要なのは、
「この人は、どのくらいの選択肢なら理解しやすいだろう?」
「二択のほうがいいかな?」と考えること。
つまり、選択そのものを支援することです。
「今日はこっちにしてみようか」も悪いわけではない
「本人の意思を尊重する」と聞くと、「絶対に本人に決めてもらわなければならない」と考えてしまうことがあります。でも、人間は毎日すべてを自分で決めたいわけではありません。
疲れている日もあります。
考えるのが面倒な日もあります。
「今日はどっちでもいいよ」と思う日もあります。
そんなとき、「じゃあ今日は職員と一緒にこれをやってみようか」
と提案してもらうほうが楽な場合もあります。
大切なのは、「本人に決めさせること」ではなく、「本人が納得できる形で決められること」。そこを間違わないことです。
選択肢を「減らす」ことは、自由を奪うことではない
「選択肢を減らす」と聞くと、「本人の自由を奪っているのでは?」と思うかもしれません。しかし、そうとは限りません。
例えば、「何がしたい?」より、「散歩と作業、どっちがいい?」のほうが答えやすい人もいます。選択肢を整理することで、「自分で決められた」という経験につながることもあります。
つまり、自由とは、選択肢の数ではない。本人が「自分で選べた」と感じられることも、自由の大切な一部分なのではないでしょうか。
支援者が「選ばせる」から「選びやすくする」へ
私たちはつい、「本人の意思を尊重しよう」とすると、本人にたくさんの選択肢を渡そうとします。でも、本当に必要なのは、選択肢を増やすことではありません。
その人にとって、「選びやすい形」にすること。
二択がいい人もいる。
写真がいい人もいる。
実物を見たほうがいい人もいる。
時間をかけたほうがいい人もいる。
逆に、ある程度提案してもらったほうが楽な人もいる。
だからこそ、「選んでください」だけでは終わらせない。
「どうしたら、この人は自分の意思を表しやすいんだろう?」と考える。
そこに、支援者の腕の見せどころがあるのかもしれません。
最後に
選択肢が多いことは、一見すると自由です。
でも、選択肢が多すぎると、人は迷います。
そして、迷っている人に対して、「本人が決めない」と評価してしまうのは、少し違うのかもしれません。
もしかしたら本人は、「決められない」のではなく、「決められる形になっていない」だけなのかもしれません。だからこそ、「どれでも好きなものを選んでください」ではなく、「AとBなら、どっちがいい?」と聞いてみる。
それだけで、本人の「自分で決める」は、ぐっと身近になるかもしれません。
選択肢を増やすことより、選びやすさを増やすこと。
これもまた、当事者の意思を尊重するための大切な支援なのだと思います。

