「障害者虐待」を知ることが、誰かを守る第一歩

「障害者虐待」を知ることが、誰かを守る第一歩

「障害者虐待」と聞くと、ニュースで取り上げられるような痛ましい事件を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。
しかし、虐待は決して特別な場所だけで起こるものではありません。
家庭や施設、学校、職場、地域社会など、障害のある方が生活するあらゆる場所で起こる可能性があります。
そして何より恐ろしいのは、虐待をしている本人が「虐待をしている」という自覚を持っていないケースが少なくないということです。

今回は、障害者虐待について考えながら、私たち一人ひとりにできることについてお話したいと思います。

【障害者虐待とは】
障害者虐待とは、障害のある方に対して身体的・精神的・性的な苦痛を与えたり、必要な支援を行わなかったり、財産を不当に利用したりすることを指します。虐待は、大きく次の5つに分類されます。

①身体的虐待
暴力を振るうことだけではありません。叩く、蹴る、押し倒す、無理やり拘束する、食事を与えない、必要以上に身体を押さえつけるなども身体的虐待に含まれます。目に見える傷だけが虐待ではありません。本人が恐怖を感じる行為そのものが問題なのです。

②心理的虐待
言葉による暴力や態度による威圧です。「何回言ったらわかるの?」「どうせできない。」「邪魔。」「うるさい。」このような暴言だけではなく、無視をする、人前で恥をかかせる、人格を否定する、必要以上に叱責することも心理的虐待になります。身体には傷が残らなくても、心の傷は長く残ります。

③性的虐待
本人の意思に反した性的な接触や行為だけではありません。裸を見せることを強要したり、必要以上に身体へ触れたり、性的な発言を繰り返すことも含まれます。障害のある方は意思表示が難しい場合もあり、周囲が異変に気付くことがとても重要です。

④経済的虐待
年金や工賃、お金を勝手に使うことです。本人のお金なのに自由に使わせない。必要な買い物をさせない。本人の財産を管理している立場を利用して不当に利益を得る。これらも虐待になります。

⑤放棄・放任(ネグレクト)
必要な支援をしないことです。食事を与えない。着替えをさせない。入浴をさせない。病院へ連れて行かない。必要な介助をしない。「何もしないこと」も立派な虐待なのです。

【虐待は「悪意」だけで起こるわけではない】
虐待という言葉を聞くと、「悪い人がすること」と考えがちです。もちろん故意に虐待をする人もいます。
しかし現実には、疲労やストレス、人手不足、知識不足、コミュニケーション不足などが重なり、気付かないうちに虐待へ発展してしまうケースもあります。

例えば、「時間がないから急がせる。」「何度言っても伝わらないから強い口調になる。」「動いてしまうから押さえつける。」
最初は「仕方ない」という気持ちだったとしても、それが日常になれば虐待へと変わってしまいます。だからこそ、「忙しいから仕方ない」で終わらせてはいけないのです。

【施設だから安心とは限らない】
障害福祉施設では、多くの職員が利用者さん一人ひとりを大切に支援しています。
毎日笑顔で接し、寄り添い、その人らしい生活を支えようと努力しています。

一方で、ごく一部では虐待が報道されることがあります。
そのたびに、「施設は怖い場所なのでは」と感じる方もいるかもしれません。

しかし、それはほんの一部の出来事です。
多くの施設では虐待防止研修を実施し、支援方法を学び、職員同士で話し合いながらより良い支援を目指しています。だからこそ、一つひとつの施設が信頼を積み重ねていくことが大切なのです。

【「これは虐待かもしれない」と気付く勇気】
虐待は隠れて起こることが少なくありません。
だからこそ、違和感を見逃さないことが重要です。

・利用者さんの表情が急に暗くなった。
・職員を見ると極端に怯える。
・以前より話さなくなった。
・必要以上に謝るようになった。

こうした小さな変化は、大切なサインかもしれません。「気のせいかな。」「言い過ぎかもしれない。」そう思って見過ごしてしまえば、苦しんでいる人を助けられない可能性があります。

【支援者も一人で抱え込まない】
障害福祉の仕事は、人と向き合う仕事です。正解が一つではないからこそ、悩むこともあります。
利用者さん一人ひとりに合わせた支援を考え続ける中で、疲れや迷いを感じることもあるでしょう。
だからこそ、職員同士で相談し、困った時には助けを求められる職場づくりが欠かせません。
支援者が心身ともに健康であることも、虐待を防ぐ大切な要素です。

【私たちにできること】
障害のある方は、困っていても声を上げられないことがあります。
だからこそ、周囲の理解が必要です。虐待を防ぐために私たちができることは決して特別なことではありません。

・相手の気持ちを想像すること。
・違和感を見逃さないこと。
・困った時には一人で抱え込まないこと。
その積み重ねが、虐待のない社会につながっていきます。

【最後に…】
障害者虐待は、決して他人事ではありません。家庭でも、地域でも、施設でも、どこであっても起こる可能性があります。
だからこそ、「虐待をしない」という意識だけではなく、「虐待を見逃さない」「虐待が起こりにくい環境をつくる」という視点が必要です。

障害のある方も、ない方も、同じ一人の人間です。
誰もが安心して笑い、挑戦し、自分らしく暮らせる社会こそ、本当に目指すべき社会ではないでしょうか。

私たちは支援という仕事を通して、利用者さんの可能性を信じ、一人ひとりの個性を尊重しながら、その人らしい人生を支えていきたいと思います。虐待を防ぐことは、特別なことではありません。「相手を大切に思う気持ち」を忘れないこと。

その当たり前の積み重ねこそが、誰もが安心して暮らせる未来へつながっていくのだと、私は信じています。